遺言書作成時の財産調査
●はじめに
「自分で覚えているから必要ないと思っていたけれど、遺言書作成時に財産調査を行う必要があると言われた。どうしてか」
「財産調査のためにどのような書類を集めるのか」
今回はこのような疑問について解説してまいります。
確かに自分が所有する財産なのだから忘れているはずがないと考える方が多くいます。
しかし、ずっと長いこと使用していなかったり、そもそも相続の対象になることを知らなかったりなどで、見落としていた財産が見つかることがよく起こります。
遺言書に記載されていない財産があると、被相続人の方が亡くなった後は、相続人全員で遺産分割協議をしてどのように分割するかを決めることになります。
協議が成立しなければ調停や審判になります。
こうしたことを考えると、せっかく遺言書を作成するのであれば、しっかりと相続財産の範囲を確定させて、一つ一つに遺言者の方の意思を反映させた方が、結果的に、手間やトラブルを軽減することにつながるのです。
財産調査は、遺言書作成時以外に相続手続きを開始する際にも行いますが、今回は、遺言書作成時に行う財産調査について解説していきます。
遺言書には、その財産を特定できる情報を記載します。そのためにその情報を確認できる書類を収集する必要があります。
●相続財産とは何か
それでは、そもそも相続財産とはどのようなものを言うのでしょうか。
大きく6つに分類しました。
それぞれの調査に必要な書類や注意事項をみていきましょう。
※合わせてこちらの記事もご参照ください。
不動産
不動産とは土地や建物のことです。
登記識別情報通知書(いわゆる権利証)や固定資産税の課税通知書等をもとに、土地の地番や建物の家屋番号を特定し登記簿謄本(=全部事項証明書)を取得します。
課税通知書は、地域により課税明細書や納付書と記載されている場合があります。
権利証や課税通知書が見当たらない場合は、公図や名寄帳を活用し地番を特定し登記簿謄本(=全部事項証明書)を請求します。
公図は法務局で、名寄帳は市区町村役場で請求できます。
名寄帳は、固定資産台帳や資産明細、課税台帳とも呼ばれます。
名寄帳を請求する際に、固定資産評価証明書も請求しておきましょう。未登記不動産の特定に役立ちます。
登記簿謄本が取得できたら、そこに記載されている所在や面積等を財産目録や遺言書に記載していくわけです。
以下、必要に応じて取得する書類をまとめておきます。
・登記識別情報通知書
・固定資産税課税通知書
・公図
・名寄帳
・固定資産評価証明書
・登記簿謄本=全部事項証明書
◇注意点
・不動産の地番と住所は一致しないことがある
不動産の地番と住所は一致しないことがあるので、必ず地番を特定して登記簿謄本を取得するようにしましょう。
・前項道路(私道)の存在に注意
持ち分のある私道も相続財産になります。しかし、私道が非課税資産の場合、固定資産税納税通知書に記載されていない可能性があります。遺言書や財産目録への記載漏れが多いので、しっかりと特定しておきましょう。
・単独所有なのか共有なのか
共有名義の不動産の持ち分は、相続人全員が取得する権利を持つので、相続時に手続きが煩雑になったり、トラブルになったりすることがあります。
共有名義が確認できれば、共有状態を解消しておいたり、遺言によって片方の共有者に相続させる旨定めておく等の対策ができます。
・評価額の記載について
一般的に不動産の評価に使われる評価金額は固定資産評価金額と路線価です。
使う指標により評価額が変わるので、紛争の種になることがあります。
不動産を受け取る人にとってみれば、低い評価額で相続した方が、他の遺産を受け取れる余地が増えますし、不動産以外を相続する人にとってみれば、高い評価額で相続してもらった方が、自分が受け取る預貯金等が増えるわけです。
ということで、財産目録にも遺言書にも評価額を記載しないことが無難でしょう。
・他市町村にある不動産の存在
名寄帳や固定資産評価証明書は、市町村役場に請求しますが、そこで出てくる不動産は、その市が課税をしている不動産のみです。必ず異なる市町村で不動産を所有していないか聞き取りをする必要があります。
・未登記不動産の存在に注意
未登記の不動産は登記簿謄本には出てきません。しかし、市町村が独自に調査して課税をしているので固定資産評価証明書で確認することができます。固定資産評価証明書の記載に則って遺言書に記載しておく必要があります。
預貯金
キャッシュカードや通帳、金融機関からの手紙、メール等から利用している金融機関を整理します。
通帳の見開きと直近の残高が記帳されているページから、口座情報と現在のそれぞれの口座の預金残高を確定します。
貸金庫がある場合は、銀行や支店名、貸金庫の番号がわかるものあるいは契約書等で確認します。
有価証券(株式・債券)
有価証券は、通常、証券会社を通して購入されるため、証券会社に解説された口座で管理されています。証券会社は定期的に取引報告書を送付しています。取引報告書に記載されてある証券会社名や支店名、口座番号等の情報を確認します。
その他の動産(自動車・貴金属・美術品等)
自動車であれば車検証から、登録番号や型式等の情報を確認します。
貴金属や美術品については鑑定書の情報を確認します。
貴金属については、品目や製造者、型番等の情報をひかえます。
美術品については、例えば絵画であれば、作品名や製作者、制作年月日等作品が特定できるような情報を確認します。
生命保険金や死亡退職金
生命保険金や死亡退職金が相続財産に含まれるのは、被相続人を受取人としている場合です。
遺言では生命保険金の受取人を変更することができます。その場合は、保険証書で生命保険の内容を確認しておきましょう。
死亡退職金については、就業先の死亡退職金支給規定に、受取人が明記されていれば、その受取人固有の財産となります。
受取人を指定することができる旨の規定があれば、遺言で指定することができます。
債務
債務とは金融機関からの借入金や住宅ローン等です。
また、連帯保証人の地位は相続しなければなりません。誰かの保証人になっていなかったかどうかを確認しておくと良いでしょう。
※遺言と債務の関係についてはこちら。
●まとめ
・財産調査をして隙のない遺言書を作ることが重要である。
・不動産は固定資産税納税通知書等の書類から登記簿謄本を取得する。
・預貯金は通帳やキャッシュカードからそれぞれの金融機関名や支店名を整理する
・有価証券は取引報告書に記載してある証券会社名や支店名、口座番号を確認する
・自動車は車検証、貴金属や美術品は鑑定書の情報を確認する。
・生命保険金が相続財産に含まれる場合は、保険証書で情報を確認しておく。
・死亡退職金は死亡退職金支給規定で受取人を指定できるか確認する。
・資産だけでなく債務の有無も確認しておく。