遺言書作成時の相続人調査

●はじめに

「遺言書を作成するときに相続人の範囲を確定すると聞いたけれど、どのような書類を集めればいいの?」

「遺言者が把握している相続人で遺言書を作成しようとしたら、行政書士から相続人の調査をした方が良いとすすめられた。どうして?」

今回は上記のような疑問に答えていければと思います。遺言書を作成する際に煩わしいのは相続人の調査や相続財産の調査です。しかし、ここをおろそかにすると後々のトラブルに繋がる可能性がありますので、その重要性を認識し、しっかりと調査の手続きを踏んだ上で遺言書を作成する必要があります。

相続人の調査は次の2つのケースで必要になります。

・遺言書を作成する

・相続の手続きを開始する

今回は、遺言書の作成時に行う相続人の調査について解説していきます。

●遺言書の作成のための推定相続人の調査

遺言書を作成するにあたり推定相続人の調査が必要です。

厳密に言えば、自筆証書遺言の場合は、自分で把握している相続人を想定して作成しても良いですし、公正証書遺言の場合は、公証役場に遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本を提出すれば作成は可能です。

ただし、次の2つの理由から、専門的な推定相続人の調査をして相続人関係図を作成しておくべきだと考えます。

・紛争の種を未然に取り除き万全な遺言書を作成する

・遺言者が亡くなった後、速やかにかつ確実に遺言を実現する

紛争の種を未然に取り除くためには、推定相続人の範囲を確実にして遺言書を作成する必要があります。

また、検認や遺言執行の際の手続きには、ここで収集した戸籍謄本を用いることができます。すなわち、遺言書の作成の段階で相続人の調査をしておけば、速やかに遺言を執行する手続きに入ることができます。

●どのような書類を集めるのか

推定相続人の調査においては次の書類を市役所に請求します。

・遺言者の出生から現在までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍

・推定相続人の戸籍謄本

・推定相続人の戸籍の付票または住民票

遺言者の出生から現在までの戸籍謄本を集めるのは場合によっては大変な手間がかかります。戸籍謄本は、本籍地で保管されているため、結婚や引越しで本籍地が変われば、複数の戸籍謄本を遡って各戸籍謄本を保管している各市役所に請求をしなければならないからです。また、戸籍は明治・大正・昭和・平成と、改製の度に書式が変化してきております。特に昔の戸籍を読解することは煩わしく、必要事項を見逃してしまうと戸籍の収集に漏れが生じてしまうことにもなりかねません。

●相続関係説明図

相続関係説明図とは、推定相続人の調査で収集した書類に基づいて、相続人が何人いてそれぞれどのような続柄か、相続関係をわかりやすいように一覧図にしたものです。

※出典:法務局ホームページより
「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」を加工した

上図は法務局のホームページの記載例に私が少し手を加えて整えた相続関係説明図の見本です。相続関係説明図に関する制度で、2017年5月29日から運用が開始された相続情報証明制度というものがありますが、また別の記事で解説します。

ちなみに、相続手続きの際に、相続関係説明図を添付すると、提出した戸籍謄本の原本を返してもらうことができます。

相続手続きでは、不動産会社の名義変更や銀行口座の名義変更・解約等の手続きなど各場面で度々被相続人や相続人の戸籍謄本が必要になりますので、その都度戸籍謄本を集めるのではなく、提出した戸籍謄本を返してもらい、また別の手続きでも利用する方が時間もお金もかからずに済むのです。

そのような利便性があるので、ほとんどの場合で相続関係説明図を作成することになります。

●まとめ

・相続人の調査は、遺言書作成時と相続開始時に行う

・遺言作成時に相続人調査を行うことは、万全な遺言書の作成と速やかかつ確実な遺言の実現を可能にする。

・相続人調査では、【遺言者の出生から現在までの戸籍謄本】と【推定相続人の戸籍謄本】【推定相続人の戸籍の付票または住民票】を収集する

・収集した書類を元に相続関係説明図を作成する