相続人にならないケース

●はじめに

「遺言書を自分の都合の良いように書き換えたり、強迫をして遺言書を書かせた者も相続人になれるの?」

「親に対して長い間暴力をふるってきた子どもでも相続人になることができるの?」

これらは当然の疑問ですよね。今回はこの疑問に対して回答していきたい思います。

前回までに説明してきたように、相続が開始した場合に相続人となるべき者のことを推定相続人といいます。

しかし推定相続人だからといってどんな場合でも遺産を相続できるわけではありません。

推定相続人が相続資格を失う場合は、大きく分けて以下の3つです。

・相続放棄

・相続欠格

・相続廃除

●相続放棄

前回の記事で触れたように相続放棄をした場合は、そもそも相続人ではなかったものとみなされます。なので、相続放棄をした者の子どもも相続資格を受け継ぐことができません。つまり代襲相続はできません。

●相続欠格

相続欠格とは、推定相続人が、次の5つの欠格事由に該当する場合、を失う決まりです。
民法891条から引用します。

・「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」

・「被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。」

・「詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者」

・「詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者」

・「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」

ちなみにこの欠格事由は、相続人だけでなく受遺者についても当てはまり、これに該当した場合、受遺者の資格を失うことになります。※受遺者についてはこちらをご覧ください。

●相続廃除

相続廃除とは、推定相続人が、次の2つの廃除事由に該当する場合に、被相続人の意思に基づいて、相続資格を失う決まりです。

再度、民法(892条)から引用します。

・「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えた」者

・「その他の著しい非行があった」者

これらの廃除事由に該当するためには、一般的に見て、被相続人と推定相続人の間に、人間関係や信頼関係を破壊するほどの重大な行為がなければなりません。

また、相続欠格と違って、あくまで被相続人の意思がなければ相続廃除は発生しません。被相続人の意思表示は次の2つが考えられます。

・生存中に、家庭裁判所(被相続人の住所地所在)に対し、推定相続人の廃除の審判を申し立てる。

・被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思表示をする。

被相続人が遺言で廃除の意思表示をした場合は、遺言執行者が、被相続人の死後、遅滞なく相続開始地(被相続人が亡くなった時に居住していた住所地)の家庭裁判所に対し推定相続人の廃除の申立てをしなければなりません。

このようにして申立てが行われた後、審判の確定によって被廃除者は当然に相続資格を失います。ただ、この場合、受遺者の資格は失いません。

ちなみに廃除の意思表示を受けた被相続人は、いつでも家庭裁判所に廃除取り消しの審判を申し立てることができます。

●欠格・廃除と代襲相続

ということで、冒頭の2つの疑問に戻ります。

1つ目の問いにおいて、故意に書き換えたり強迫して遺言をさせた者は欠格事由に当たる可能性があります。

2つ目の問いにおいて、被相続人に暴力をふるってきたものは、欠格事由には該当しませんが、その程度によっては、廃除事由に該当する可能性がありますよね。ただ、暴力の非が一方的に子どもにあるわけではない場合等、各々において事情や実態は複雑であることが多いので、暴力がふるっていたからといってすぐに廃除事由にあたるとみなされるかというとそうではないようです。

ちなみに、相続放棄とは異なり、欠格や廃除事由によって相続人の資格を失った子どもは相続資格を受け継ぎます。つまり、代襲相続が起こるということになります。

●まとめ

・相続人にならない場合は、相続放棄、相続欠格、相続廃除がある

・相続放棄をすると、そもそも相続人ではなかったものとみなされるため代襲相続も起きない

・相続欠格は5つの欠格事由に該当する場合に相続資格を失う制度である

・相続廃除は2つの廃除事由に該当する場合に、被相続人の意思表示に基づいて、相続資格を失う制度である。

・相続放棄と違い、欠格や廃除には代襲相続が起きる