これまで3種(自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言)の遺言書を見てきました。これらは普通方式遺言と呼ばれています。滅多に用いられることはありませんが、遺言書には、突然死期が目前に迫ったというような緊急事態に作成可能な特別方式遺言というものがあります。

特別方式遺言は大きく分けて2つです。危急時遺言と隔絶地遺言です。それでは順を追ってみてまいりましょう。

●危急時遺言

危急時遺言には2種類あります。

・一般危急時遺言

病気や怪我で生命の危機が迫っているような状態で作成する遺言です。本人が遺言を作成できなければ、証人の1人に口頭で遺言を伝え筆記してもらいます。その後、筆記したものを遺言者と証人に読み聞かせるか閲覧させて筆記の正確なことを確認し、その他の証人が署名を行い完成です。

証人は3人以上必要になります。また、作成した20日以内に遺言者の住所地の家庭裁判所で確認の手続きが必要になります。

・難船危急時遺言

船や飛行機等を利用している時に危難が迫った際に作成する遺言です。概要は一般危急時遺言と同様です。ただし一般危急時遺言より緊急性が高いということで、必要な証人の数は2人以上です。また、一般危急時遺言と同様に後日家庭裁判所で遺言の効力について確認をしてもらう必要がありますが、民法には「遅滞なく」という記述があるのみで、日数の決まりはあリません。

家庭裁判所での確認手続きに必要な書類は以下の通りです。

・遺言確認裁判申立書

・申立人の戸籍謄本

・遺言者の戸籍謄本

・証人の戸籍謄本

・遺言書の写し

・診断書(遺言者が生存している場合)

申立人は証人の1人か利害関係者(遺産を受け取る人)によって行います。

また確認手続きと検認は異なる手続きになります。遺言を執行するためには、再度、家庭裁判所での検認の手続きが必要になります。

危急時の遺言は、本人の自筆も公証人の立会いも必要ないので、後日、相続人間で遺言の効力をめぐって争いが起きる可能性もあります。

必要に応じて、医師の立会いや診断書の作成、遺言の様子を録画しておく等、本人の意思に基づいて作成されたことを証明できるような工夫をしておくことをおすすめします。

●隔絶地遺言

隔絶地遺言にも2種類あります。

・一般隔絶地遺言

伝染病や災害などで遠隔地に隔離されてるために、通常の遺言方式を利用するのが難しい場合や刑務所に服役中の人等に用いられる方式です。警察官1人と証人1人の立会いが必要です。また、代筆や口頭で書き取ってもらう等の方法は認められず、遺言書は本人が作成しなければいけません。遺言者、立会い人全員の署名押印をして完成です。本人が作成しているため家庭裁判所での確認手続きは不要ですが、検認は必要になります。

・船舶隔絶地遺言

長期間にわたる航海等で陸地から離れた場所にいるために、通常の遺言書を作成できない人に用いられる方式です。船長もしくは事務員1人と証人2人以上が必要です。遺言書は本人が作成し、遺言者・立会い人全員の署名押印をして作成します。家庭裁判所での確認手続きは不要ですが、検認は必要です。

●その他

特別方式遺言は、あくまで特殊な場合に認められる方式です。なので、遺言者が普通方式で遺言ができるような状態になった時から6ヶ月間生存するときは効力を失います。

また、証人や立会人の要件は、

・未成年者でない者

・遺産を受け取る可能性のあるものでないもの

 (推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者や直系血族)

・公証人の配偶者、四親等内の親族、初期及び使用人でないもの

です。これは普通方式でも同様です。

●まとめ

一般危急時遺言は入院中に急変があった際に用いられることが多いようです。その中には、元々遺言書の作成について相談をしている方が少なくありません。公正証書遺言の作成に必要な公証人の立会いは、病院等への出張も可能です。後々の手続きや遺言の効力を巡っての争いを避けるためには、早いうちに普通方式に則った遺言書作りをおすすめします。