遺言事項ー遺言書に書くと法的効力のあるもの/ないものー
●はじめに
「遺言書にはどのようなことが書けるのか」
「遺言書には希望する葬儀の方法を書いても良いのか」
遺言書の内容について、上記のように、どのようなことを書いても良いのかという質問をよくいただきます。今回の記事では、遺言書の内容について解説していければと思います。
●遺言書には何を書いてもよい
遺言書には何を書いても構いません。ただし、書いて法的効力の発生するものと、書いても法的効力が発生しないものがあります。
法的効力が発生するものは、法定遺言事項と呼び、民法等に規定されていたり、法令に明確に定めがなくても遺言によって可能な行為として解釈されております。
法的効力が発生はしないけれど、付言事項で、葬儀の方法やこれまでの人生への想い、大切な人への想いを自由に書くことができます。
葬儀の方法等、死後の事務について、法的効力を持たせて特定の人に任せたいという希望をお持ちの方は、死後事務委任契約を結んでおくことをおすすめします。
●法定遺言事項
法定遺言事項は、相続に関する事項・財産処分に関する事項・家族関係に関する事項・遺言の執行に関する事項に分類することができます。
相続に関する事項
・推定相続人の廃除や廃除の取り消し
廃除とは、相続人が被相続人を虐待したり重大な侮辱を加えたりした場合、相続人に著しい非行があったりした場合に、家庭裁判所に請求することで、その相続人の相続資格を奪う制度です。※詳しくはこちら。
遺言によって廃除の意思表示をすることもできますが、生前に廃除の審判の申立てをすることもできます。
・相続分の指定
法定相続分とは異なる相続分を自由に指定することができます。
また自分では決められないので、第三者に相続分の指定を委託することもできます。
※法定相続分についてはこちら。
・遺産分割の指定または禁止
どの遺産を相続人の誰に引き継がせるか自由に決めることができます。またこの指定を第三者に委託する旨を記載することができます。
そして、5年を超えない期間を上限として、遺産分割を禁止することを指示することもできます。
・遺産分割の際の担保責任に関する定め
民法には、相続した財産に瑕疵があった場合に、相続人間の公平性が担保されるように、基本的に他の相続人で、瑕疵があった財産の損失分を補填します。これが担保責任の定めです。※詳しくはこちら。
しかし、遺言の記載に、「誰も担保責任を負わない」等の記載があれば、上記のような担保責任が無効になります。
・遺留分
遺留分とは、相続の際に、法で定められた相続人が定められた割合の相続財産を確保することができる制度です。遺言書に、特定の相続人に全ての財産を相続させるという記載があっても、他の相続人に遺留分が認められれば、決められた割合で遺産を確保することができるというわけです。
※遺留分について詳しくはこちら。
遺留分侵害額請求がなされた場合、受遺者や受贈者はその侵害額を支払わなければなりません。この時、受贈者よりも先に受遺者に支払い義務が生じるというように、支払いの順序が民法では定められていますが、遺言書によって、そのような順序等を定めることができます。
・特別受益の持ち戻しの免除
特別受益とは、噛み砕いていうと、生前に被相続人から受けた贈与などを相続の前渡しとみなしますよ、ということです。これにより遺贈や生前贈与の分を相続財産に持ち戻して、法定相続分の修正を行います。
※特別受益について詳しくはこちら。
遺言書によって、この持ち戻しを免除することができます。
財産処分に関する事項
・遺贈
遺贈とは、遺言書によって、無償で遺産を譲り渡すことです。遺贈を受ける方を受遺者と呼びます。受遺者には相続人も相続人以外の方もなることができます。
つまり相続人以外で遺産を譲り渡したい場合は、遺言書に遺贈の事項を盛り込むことが必要です。
※遺贈について詳しくはこちら。
・一般財団法人の設立
遺言によって一般財団法人を設立することができます。遺言書で一般社団法人を設立するいしを表示し、定款に記載すべき内容を定めて、遺言執行者がその遺言内容を実現します。
・信託の設定
信託とは、委託者と受託者と受益者で構成されます。
委託者は財産を受託者に委託する人です。財産の所有権は受託者に移ります。
受託者は委託者から財産を委託される人です。受益者のために信託された財産を管理・処分する人です。
受益者は信託財産から得た利益を受け取る人です。
信託は生前に契約されることが多いですが、遺言によっても可能です。
・保険金受取人の変更
生命保険金の受取人の指定や変更を遺言によって実現することができます。
家族関係に関する事項
・遺言認知
認知とは、婚姻関係のない夫婦の間に生まれた子=非嫡出子について、父親が自分の子であると認めることをいいます。これにより非嫡出子と父親は法律上の親子関係になります。認知は生前にすることもできますが、遺言によっても可能です。
・未成年後見人/未成年後見監督人の指定
未成年後見人とは、親権を行うものがいなくなった未成年者の監護教育・財産管理・契約等の法律行為を行うものです。未成年後見監督人は、未成年後見人がその任務を十全に果たしているかチェックする役割を担います。
未成年後見人の指定は遺言によってのみ可能です。
遺言の執行・撤回に関する事項
・遺言執行者の指定
遺言執行者とは、遺言の内容を実現する人のことです。遺言の実現を速やかにかつ確実に行うために一定の職務権限が与えられます。
※遺言執行者についてはこちら。
遺言執行者の指定は、第三者に委託することが可能です。また、遺言者による指定や第三者への委託もされていない場合は、利害関係人の申立てにより家庭裁判所によって選任されます。
遺言執行者の復任権や共同遺言執行者、遺言執行者の報酬を指定することもできます。
・遺言の撤回
自筆証書遺言の場合は、自分で書いた遺言を破棄してしまえば遺言書自体が無くなりますので事実上撤回と同じことになりますが、公正証書遺言の場合は、公証役場に原本が保管されますので、撤回する場合は、新たに遺言書を作成し撤回するしかありません。遺言の撤回には全部撤回と一部撤回があります。
※遺言の撤回について詳しくはこちら。
・祭祀主宰者の指定
祭祀主宰者とは、系譜・祭具・墳墓を引き継ぎ、祖先の祭祀を主宰すべきもののことです。遺言によって祭祀主宰者の指定をすることができます。
系譜とは、家系図や過去帳のことです。
祭具とは、仏壇や位牌、仏具、神棚のことです。
墳墓とは、墓跡や墓地、墓地使用権のことです。
祭祀主宰者が、遺言によって指定されていなければ慣習によって選任するとされています。慣習も明らかでない場合は、裁判所の審判によって決まります。
●付言事項
付言事項は、書いても法的効力が発生しませんが、自由に思いのたけを書くことができます。
これまでの人生で起きた印象的な経験やそこから得た遺訓を書いて生きた証を残すとうことも意義のあることだと思います。
また、なぜ自分が遺言書を書こうと思ったのか、どうしてこのような遺産の分け方にしたのか、残された方が納得できるような思いを書き残すことは、相続における紛争を未然に防ぎ、円満な相続を実現することにつながります。
逆に、特定の相続人への恨みつらみを記載することは相続トラブルにつながる可能性があるので避けた方が無難でしょう。
●まとめ
・遺言書には何を書いても良いが、法的効果が生ずるものと書いても法的効果が生じないものがある。
・法的効果が生ずるものは、法定遺言事項である。
・法的効果が生じないものは、付言事項に自由に記載する
・法定遺言事項には、相続や財産処分、家族関係、遺言執行や撤回に関する事項等がある。
・付言事項の記載の仕方によっては、相続トラブルを未然に防ぐことができる。