遺留分①ー遺留分とはー

●はじめに

「父の遺言書に全ての財産を長男に相続させるという記載がされていたけれど、長女である私は一銭も受け取ることはできないの?」

「相続人には遺留分という権利があると聞いたけれど、どういう権利なの?」

相続人には遺留分があるから遺産が全くもらえないことはない、ということはもしかしたら多くの方が聞いたことがあるかもしれません。それでは遺留分とは具体的にどのように定められているのかについて説明できる人はあまりいないのではないでしょうか。

今回の記事を読めば、遺留分の概要をつかむことができると思います。

遺留分とは、相続の際に、決められた相続人が決められた割合の相続財産を確保することができる制度です。

●遺留分とは

被相続人は、遺言や贈与などで、遺産を誰にどれだけ与えるかを自由に決めることができますが、民法では、遺言や贈与などによっても奪うことのできない最低限の取り分を遺留分として保護しているのです。

そこには、本来相続をすることができたはずの相続人の生活を保障したり、家族の財産を公平に配分するという点をある程度尊重する意味合いがあります。

●遺留分権利者

遺留分の権利を持っている相続人を遺留分権利者と呼びます。遺留分権利者は、兄弟姉妹以外の相続人です。※相続人の範囲についてはこちら

つまり、兄弟姉妹以外の相続人とは、配偶者・直系卑属・直系尊属になります。

遺留分の割合は、相続人が誰かによって異なります。

相続人が配偶者や直系卑属の場合は2分の1、直系尊属の場合は3分の1に、法定相続割合をかけ算したものになります。

例えば、亡き父に遺産が3200万円ありました。父は遺言書で長男に3200万円全てを相続させると記載しました。相続人が、配偶者・長男・長女であった場合、配偶者と長女にも遺留分として最低限受け取れる遺産があります。計算すると以下のようになります。

配偶者の遺留分=2分の1×2分の1=4分の1

長女の遺留分=2分の1×4分の1=8分の1

よって、配偶者が請求できる遺留分侵害額は、
3200×4分の1=800万円

長女が請求できる遺留分侵害額は、3200×8分の1=400万円

ということになります。

上記長女の遺留分の計算式における4分の1とは、直系卑属の法定相続分2分の1に対して、直系卑属が長男と長女で2人いるので、2分の1をかけ算して算出したものです。

●遺留分の算定基礎となる財産

遺留分の算定基礎となる財産とは、先述した例題で言うと3200万円のことです。この財産はどのように定められているのでしょうか。

以下が計算式になります。

遺留分の算定基礎となる財産=積極財産+「贈与」した財産ー債務

積極財産とは債務ではない財産のことです。

「贈与」とは、ここでは、相続開始前1年間になされた贈与と相続開始前10年間になされた相続人への特別受益です。※特別受益についてはこちら

相続開始前1年間になされた贈与の対象は、相続人以外等、誰に対してのものも含みます。

●遺留分の請求について

遺留分は、遺留分侵害額を金銭として請求します。以前は、遺留分の権利を行使すると財産を共有する状態に置かれていましたが、2018年改正相続法の成立によって、金銭としての請求のみとなりました。

つまり、先述した例題において、例えば遺産が3200万円の評価額がある不動産1つの場合は、それを遺言によって全て相続した長男は、配偶者や長女から遺留分の請求を受けた場合、現金で遺留分侵害額を支払わなければなりません。

ちなみに、遺留分の請求は、受遺者(遺贈を受けたもの)や受贈者(贈与を受けたもの)に対する一方的な意思表示でよく、調停や裁判の申立てをする必要はありません。ただし、しっかりと遺留分請求権行使の意思表示をしましたよと立証しておく必要から言うと、配達証明付き内容証明郵便によって意思表示することをおすすめします。

●まとめ

・遺留分とは相続人が最低限受け取れる遺産を確保するための制度である。

・遺留分を請求する権利を持っている者は、兄弟姉妹以外の法定相続人である。

・遺留分の割合は、配偶者や直系卑属が2分の1、直系尊属が3分の1に法定相続分の割合をかけ算したものである。

・遺留分の算定の基礎となる財産は、積極財産に「贈与」した財産を足し算し、債務を引き算したものである

・遺留分侵害額は金銭としてのみ請求できる

・遺留分の請求は、受遺者や受贈者に対して一方的に意思表示をする形でよい