相続と遺贈の違い
●はじめに
「遺言書の作成において、譲り渡す相手によって相続と遺贈を使い分けると聞いたけれど、相続と遺贈で何が違うの」
「相続させると書いた場合と遺贈すると書いた場合で取り扱いに違いが出ると聞いたけれど、具体的にどのような違いが出てくるの」
遺言書を作成してみようと思い立った方が、少し遺言のことを調べると必ずと言っていいほど、相続と遺贈の違いに疑問が湧きます。
このブログの記事で何度も指摘しているように、遺言には厳格な方式がありますので、どの文言を選択するかによって、法的効果に違いが出てくるため注意が必要です。
そこで今回は、相続と遺贈の違いについて解説していきます。
●相続と遺贈の違い
相続と遺贈の違いは大きく分けて3つあります
①言葉の意味の違い
②その後の手続きへの影響の違い
③税金の違い
です。
それぞれ見ていきましょう。
●言葉の意味の違い
まず〈言葉の意味の違い〉から見ていきましょう。
相続とは、亡くなった方の財産を、法定相続人が引き継ぐことです。法定相続人とは、配偶者や子ども、兄弟の方でしたよね。※相続人の範囲についてはこちらをご参照ください。
遺贈とは、遺言書によって、無償で遺産を譲り渡すことです。遺贈を受ける方を受遺者と呼びます。受遺者には法定相続人でも法定相続人以外でも、どなたでもなることができます。
ちなみに遺言書に「〜に与える」とか「〜を譲り渡す」とか「〜にあげる」などの言葉が使われた時は、基本的に「遺贈する」と同様の意味であるとみなされます。
●手続きへの影響の違い
次に〈手続きへの影響の違い〉について見ていきましょう。
遺言書の文言に相続を用いるか、遺贈を用いるかによって、その後の手続きにおいて、大きな違いが生まれます。
基本的に相続人に対しては、親族が想定されている分、保護が手厚いので、法定相続人には相続を用いた方がメリットが多いと言えるでしょう。
それでは各種手続きについて見ていきましょう。
不動産の登記
相続人であれば単独で登記申請が可能です。一方で、受遺者の場合、相続人全員と共同で行う必要があるので手続きが煩雑になります。
これを避ける方法は遺言書で遺言執行者を指定しておくことです。受遺者と遺言執行者のみで登記申請が可能になります。
ちなみに、その受遺者を遺言執行者に指定しておけば、受遺者単独で登記申請をすることが可能になります。
農地の取得
相続人であれば、何の許可を得る必要もなく農地を取得することができます。
これに対し、受遺者の場合、農業委員会あるいは都道府県知事の許可が必要になります。
債権者への権利の主張
相続人の場合、法定相続分を超えない範囲ではありますが、登記をすることなしに債権者に対して相続財産の権利を主張することができます。
受遺者の場合は、登記を済ませていないと権利を主張することができません。
つまり、受遺者が登記をする前に、債権者に遺贈された不動産を差し押さえられてしまった場合は、債権者に対抗できないということになります。
借地権の引き継ぎ
相続人の場合は、配偶者や子どもの方が想定されていますので、土地の賃貸借の引き継ぎについて、ある程度の保護が受けられます。つまり、借地権を引き継ぐ時にオーナーの承諾は入りません。
一方、受遺者の場合は、このような保護が想定されておりませんので、借地権を引き継ぐ際にはオーナーの承諾が必要になってきます。
●税金の違い
相続と遺贈では発生する税金においても違いが生まれます。
不動産取得税
不動産取得税とは、その名の通り、不動産を取得した際に発生する地方税です。
相続の場合、不動産取得税はかかりませんが、特定遺贈の場合は、不動産取得税が発生します。
相続税
相続の場合も相続税がかかりますが、遺贈の場合はさらに2割加算の相続税が取られます。ただし、法定相続人が兄弟姉妹や祖父母の場合は、同様に2割加算の相続税が発生します。
登録免許税
登録免許税とは、登記の際に収める税金です。この場合、不動産の相続登記をする時に支払う税金になります。登録免許税は、土地や建物の評価額に法で決められた税率をかけ算して求められます。相続の税率は0.4%ですが、遺贈の場合は2.0%かかります。
●法定相続人に遺産を譲り渡す時は「相続させる」を使おう
このように、相続と遺贈では、手続きや税金の面で取り扱いが異なってきます。遺贈という文言は法定相続人に対しても用いることができますが、法定相続人に対しては「相続させる」という文言を用いた方が、様々な点でメリットが大きいと言えるでしょう。法定相続人に遺贈という文言を用いることはないにしても、先ほど説明したように、「譲る」や「あげる」、「与える」も遺贈するの意味で解釈されますので、注意する必要があります。
●まとめ
・相続とは、亡くなった方の遺産を法定相続人に引き継ぐことである
・遺贈とは、遺言書によって、遺産を無償で譲り渡すことである。
・相続と遺贈のどちらの文言を使うかによって手続きや発生する税金に違いが出る
・法定相続人に遺産を譲る場合、「相続させる」を用いた方がメリットが多い。
・「あげる」「与える」「譲る」という文言は「遺贈する」という意味で解釈されるので注意する。