被相続人死亡後の預貯金の払戻し

Q. 入院していた母が亡くなりました。入院費用や葬儀費用を支払うために母名義の銀行口座の預貯金を払戻すことは可能ですか?

A. 決められた範囲内の額で払戻しが可能です。

亡くなられた方名義の預貯金の取得に関しては、2018年7月の改正相続法の成立により、次の二つの方法が認められています。

①仮処分手続きによる方法

②仮処分手続きによらない方法

このうち①は、遺産分割の審判や調停を行っている場合に限られることや家庭裁判所に申立てを行わなければならない等手続きが煩雑なので、当座の資金を確保するためには②が用いられることが多いでしょう。

そこで今回はこの仮処分手続きによらない方法について解説していきます。

●仮処分手続きによらない払戻し方法

改正相続法により、次の決められた範囲内の額まで、各相続人が単独で預貯金を払戻しできるようになりました。

・【(相続開始時の)預貯金額】×3分の1×【払戻しを求める相続人の法定相続分】

・各金融機関ごとの払戻し上限額=法務省令で定められた金額→当面は150万円

●例題

ここで例題をいくつか問いてみましょう。

⑴ A銀行の普通預金に210万円、定期預金に300万円保有していた場合
払戻しをする相続人の法定相続分は2分の1

 → 普通預金:210×3分の1×2分の1=35万

   定期預金:300×3分の1×2分の1=50万

  ※定期預金は満期が到来していることが条件です

この場合、合わせて85万円の払戻しを受けることができるが、普通預金から85万円全てを払戻すことはできないので注意が必要です。

⑵ A銀行の普通預金に600万円、定期預金に900万円
B銀行の普通預金に660万円を保有していた場合
払戻しをする相続人の法定相続分は2分の1

 → 【A銀行】

   普通預金:600×3分の1×2分の1=100万

   定期預金:900×3分の1×2分の1=150万

   【B銀行】

   普通預金:660×3分の1×2分の1=110万

この場合はA銀行については、合わせて250万円ですので、上限の150円まで払戻し可能となります。

どちらからどれくらいの割合で引き出しても構いません。

B銀行の場合は、上限に届いていませんので、110万円払戻しすることが可能です。

ということで、合計すると260万円を払戻し可能ということになります。

ちなみに払戻しの請求回数について特に制限が設けられているわけではないので、上限額に達するまでは、何度でも払戻しをすることが可能です。

●まとめ

・被相続人死亡後にその方の名義の口座から預貯金を払戻すことができる額が決まっている。

・払戻しができる額は、【(相続開始時の)預貯金額】×3分の1×【払戻しを求める相続人の法定相続分】である

・ただし各金融機関ごとに上限額150万円までである。

・払戻しの回数については、上限額に達するまで何度も可能である。